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遺言と相続登記

遺贈とは

遺贈とは、遺言によって、遺言者の財産を無償で譲ることをいいます。

そして遺贈には、包括遺贈特定遺贈があります。

包括遺贈とは、遺産の全部または一部を一定の割合で示してする遺贈をいいます。
特定遺贈とは、特定の具体的な財産を対象とする遺贈をいいます。

遺贈による登記手続について

「遺贈」を登記原因として所有権移転登記を申請する場合、どのような手続になるのでしょうか。

(単独申請か共同申請か)
まず、登記申請は共同申請となり、登記権利者が「受遺者」、登記義務者が「遺言執行者」となります(遺言執行者がいないときは、相続人全員が登記義務者となります。)。

(添付書類について)
共同申請となるので、登記原因証明情報、登記識別情報(登記済証)、印鑑証明書が必要となります。
その他、住所証明書(住民票または戸籍の附票)、委任状(司法書士に委任する場合)が必要となります。

登記原因証明情報としては、遺言書、遺言者の死亡の記載のある戸籍(除籍)謄抄本が必要となります。


登記識別情報通知(登記済証)は、対象不動産のものが必要となります。
紛失等してないときは、事前通知の手続または資格者代理人による本人確認情報が必要となります。本人確認の相手は、遺言執行者となります(遺言執行者がいないときは、相続人全員となります。)。

印鑑証明書としては、遺言執行者のものが必要となります(遺言執行者がいないときは、相続人全員のもの)。作成後3カ月以内のものが必要です。

住所証明書は、受遺者のものが必要となります。

委任状は、受遺者から司法書士へのもの、および遺言執行者から司法書士へのもの(遺言執行者がいないときは、相続人全員から司法書士へのもの)が必要です。

※さらに、相続人全員が登記義務者となるときは、遺言者の出生から死亡までの戸籍(除籍・原戸籍)謄本など、相続人全員であることを証明する戸籍等謄本が必要となります。

cf.
死亡時に遺言者の住民票上の住所が、登記簿上の住所と異なる場合。
この場合、遺贈による所有権移転登記の前提として、所有権登記名義人の住所変更登記を申請しなければなりません。
この登記手続は、遺言執行者からの単独申請となります。遺言執行者がいないときは、相続人のうちの1人から行うことができます(保存行為)。

遺言の文言と登記手続

遺言により登記を申請する場合、登記原因としては「相続」または「遺贈」のいずれかとなります。

遺言書には、財産を○○に「相続させる」「遺贈する」といった文言で記載されていることが多いです。

それでは、遺言書の文言どおりに、登記原因も「相続」「遺贈」になるのでしょうか。

登記原因が「相続」の場合は単独申請、「遺贈」の場合は共同申請となり、手続が大きく異なるので明確に分ける必要があります。

この点、原則として、遺言書に記載の通りの文言が登記原因となります。

遺言書に「相続させる」と書かれていれば、登記原因は「相続」となり、「遺贈する」と書かれていれば、登記原因は「遺贈」となります。

しかし、以下の場合には例外となります。

1.「相続人全員に対し、相続財産の全部を遺贈する」内容の遺言の場合は、登記原因は「相続」となります。
(昭和38年11月20日民甲第3119号)

2.「相続人以外の者に対して、相続させる」内容の遺言の場合は、登記原因は「遺贈」となります。(登記研究480・131頁)
相続人以外に相続させることはできないため。

cf.
なお、遺言書に「与える」「譲る」「差し上げる」などと書かれている場合は注意が必要です。
相続人以外の者にこれらの文言が書かれていれば登記原因は「遺贈」なりますが、相続人に対してこれらの文言が書かれている場合は、「相続」「遺贈」のどちらになるのかは判断が難しいところです。その場合は、事前に法務局に確認するのが良いでしょう。

相続させる遺言と登記申請

甲土地を相続人Aに「相続させる」遺言により、登記する場合の手続について説明します。

この場合、相続人へ相続させる旨の遺言をしているので、Aへ「相続」を原因とする所有権移転登記を申請します。

(単独申請か共同申請か)
この場合、登記原因が「相続」であるため、相続人Aによる単独申請となります。

遺言により、遺言執行者が選任されていても遺言執行者の行為を要せず、相続人A単独で登記申請をすることができます。

これは、遺産分割方法の指定と解されるからです。
すなわち、被相続人(遺言者)が死亡した瞬間に確定的に甲土地はAのものになっているからです。

(添付書類について)
登記原因証明情報、住所証明書、委任状(司法書士に依頼する場合)が必要となります。

登記原因証明情報としては、遺言書、遺言者の死亡の記載のある遺言者の死亡の記載のある戸籍(除籍)謄抄本、Aが受遺者の相続人であることが分かる戸籍謄抄本が必要となります。

住所証明書としては、Aの住民票または戸籍の附票が必要となります。

委任状は、Aから司法書士へのものが必要となります。

登録免許税について

遺言による登記をする際の、所有権移転登記の登録免許税の税率はどのようになるのでしょうか。

原則として、登記原因が「相続」のときは1000分の4、「遺贈」のときは1000分の20となります。

ただし、登記原因が「遺贈」であっても、受遺者が相続人の場合は1000分の4となります。
この税率の適用を受けるためには、受遺者が相続人であることを証明する戸籍謄抄本を添付しなければなりません。
(平成15年4月1日民二第1022号通達)

遺言と異なる遺産分割協議

遺言の内容と異なる遺産分割協議はできるのでしょうか。

これは、遺言の内容が①遺産分割方法の指定にあたる場合②相続分の指定にあたる場合とで分けて考える必要があります。

①遺言の内容が遺産分割方法の指定にあたる場合
例えば「長男Aに甲土地、二男Bに乙土地を相続させる」といった内容の遺言をしている場合です。
この場合、当然「遺贈する」遺言ではなく、相続人へ「相続させる」遺言である必要があります。

このとき、遺言の内容に反し、相続人全員の合意でAが乙土地、Bが甲土地を取得することとし、直接、「相続」を原因として乙土地をA名義に、甲土地をB名義に所有権移転登記申請することはできるのでしょうか。

この点、上記のような登記はできないとされています。

なぜなら、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺産分割方法の指定と解され、何らの行為を要せずして、当該遺産は、被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継される、とされるからです。(平成3年4月19日最高裁判決)

しかし、相続人全員で遺言の内容と異なる遺産分割協議をすることは認められており(平成14年2月7日さいたま地裁判決など)、この場合は、新たな贈与契約や交換契約と解することができます。

乙土地をA名義、甲土地をB名義とするためには、まず「相続」を原因として甲土地をA名義、乙土地をB名義とする所有権移転登記をした後に、乙土地をA名義、甲土地をB名義とする贈与や交換による所有権移転登記をする必要があります。

②遺言の内容が相続分の指定にあたる場合
例えば、「長男Aの相続分割合を3分の2、二男Bの相続分割合を3分の1とする」といった内容の遺言をしている場合です。

この場合、AとBが相続財産を遺産共有している状態である(AもBも確定的に財産を取得していない)ため、遺言の内容と異なる遺産分割協議を行ない、直接「相続」を原因として所有権移転登記をすることができます。

(関連先例)
・特定の不動産を「長男A及び2男Bに各2分の1の持分により相続させる。」旨の遺言書とともに、A持分3分の1、B持分3分の2とするA及びB作成に係る遺産分割協議書を添付して、当該持分による相続登記の申請はすることができない。
(登記研究546号)

・共同相続人中の2名に相続させ、分割の方法はその2名の協議で決める旨の遺言がある場合、遺言書及び当該2名の相続人による遺産分割協議書を添付してする相続登記の申請はすることができる。
(登記研究565号141頁)

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